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決着はお白州で

料理の完成は、調理が終わったときに成立する。
これが、原則だ。満漢全席からインスタント・ラーメンにいたるまで、この鉄則は貫かれている。
ただし、例外もある。その稀有なとして鍋料理が挙げられよう。鍋料理は、調理とともに料理の摂取がとりおこなわれる。その意味で、料理界ではきわめて特異な位置を占めている。他の者を寄せつけぬ厳格な一面もあり、時として出没する「鍋奉行」なる存在が、それを如実に物語っている。
それなりの順序・作法というものが存在すると、人々は暗黙のうちに了解している。

この年末年始に、鍋を囲んだ老若男女はどれほどの数にのぼるであろうか。
先ほど記した「鍋奉行」は、しばしば揶揄の対象となるが、彼は調理すなわち食事の過程でその場を制御せんとする者であり、言わば事業拡大の際におけるリーダーシップをとろうとする存在であるから、その印象は陽性で、彼を非難する声にもどこか親愛の情が漂う。
発展途上では、皆が上を向いている。だからこそ、底抜けの明るさがある。

小生が許せぬのは、鍋が終盤を迎えるころに、
「もう、煮詰まったらアレだから、そろそろ火を消そうか」
という手合いである。
前述のように、鍋料理は調理と食事が同時進行しているのだ。たとえば鍋の中で小刻みにふるえる豆腐、湯気の中で見え隠れしている白菜、そして生命が宿っているかのごとく律動をくり返す肉や魚。
火を消すことで、それらの動きが止まってしまうのだ。何より、鍋の中からグツグツという音が消えてしまうのである。つまり、調理を終えることすなわち料理に終止符を打つということになる。
とたんに、鍋の中は残り物。それに箸をつけるのは「残飯整理」と化す。まことにつまらぬ。迷惑千万。よけいなおせっかいも甚だしい。

そもそも「アレ」とは、いったい何か。
魚のおどり食いにはじまり回転寿司にいたるまで、この日本では食材が動くことに料理の価値があるということは、紛れもない事実である。
鍋の中が煮詰まって、何がいけないのか。
ほう、省エネを口にするか。笑止。ならば最初から生で食えばよろしい。食材を生で食することは、日本料理のもう一つの美徳ではないか。

皿の美しさも料理のうち。盛りつけは食の粋。焼肉はむせるほどの煙やにおいがあってこそだ。
そんなこともわからぬ輩を、小生は「鍋下手人」と呼んでいる。経験上「鍋奉行」と「鍋下手人」は同一人物ではない。
下手人はたいてい器の小さい奴だ。そうに決まってる。

人様の食事を勝手に切り上げてしまう犯罪者には、百たたきの上、市中引き回し。さらに、回転寿司屋で止まっているレーンの寿司を食わせるというのは、どうか。
今度、鍋奉行に「恐れながら…」と願い出ようと思っている。

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エッセイ」カテゴリの記事

コメント

おはようございます。

最近、先生のエッセイにハマってます。。

確かにいますね。。仕切る人。焼き肉の際、焼き具合までうんちくをたれる人が。。
ほとんど生肉を食わされた経験があります。。まあ、レア・ケースですが。。w

胃袋に関することについて、人からとやかくいわれることはホント迷惑ですね。

食材が動く。。究極は流しそうめんでしょうか。。

一見風流でいいのでしょうが、たまり場の残飯処理がほんとタマリません。。

オヤジが上流側に座り、私たちこどもは。。今考えただけでもゾッとします。。w


投稿: ウナヤンケ | 2013年1月12日 (土) 08時36分

ウナヤンケさん
毎度のごひいき、ありがとうございます。

流しそうめん、めったにやりませんが、めったにやらない分、気分の高揚というかソワソワ度の高さは否めませんね。

宮本武蔵ならいざ知らず、どんな重厚な雰囲気の人でも、あのイベントの前ではたちまち浮足立ってしまいまそうです。

だから、高倉健さんなんかには絶対流しそうめんは食べてほしくないですね(笑)

投稿: りゅうはく堂店主 | 2013年1月14日 (月) 21時47分

こんばんは
先生も健さんのファンですか?

健さんなら動ぜず刮目しながら食べるようなきがしますが。。

なんたって、健さんビーイング健さんですから。。「ブラック・レイン」の健さんはのぞきますけどね。。w

でも、いくら健さんでも下流にすわるのはいやだなあ。。○北まきならかろうじて。。いや、是非。。w

投稿: ウナヤンケ | 2013年1月16日 (水) 22時04分

そうそう、「ブラック・レイン」の健さんには驚きましたね。
…というより、さすがハリウッド。
我らが健さんを、そう使うかと膝を叩いたもんです。

特にレイ・チャールズの歌を熱唱するシーンは、当時の私にとって衝撃的でした。

でも、大好きな映画で、今でも時々DVDで観ていますよ。

投稿: りゅうはく堂店主 | 2013年1月16日 (水) 23時17分

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