映画「RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」
ドラマの成否は、登場人物の心理の変化の描き方にかかっている。
そのため、主題のアンチテーゼから物語を始めるというのが、定法だ。この作品でも、それが踏襲されている。
すなわち、日々の仕事に追われ家族を顧みることのなかった筒井肇(中井貴一)が、同期の親友の死と自分の母親の入院を機に、かつての夢であった電車の運転手になるというストーリーが展開されるのである。
配役の妙といい、ロケーションの魅力といい、好ましい作品にはなっていた。
しかし、観終わった後にどうも違和感が残る。どうしても、ストーリーの細部に納得できないものがある。
それは、小道具の使い方だ。肇の親友である川平の息子が難病に苦しむ病床で作ったという小さな彫刻である。しかし、これがこの作品の中で果たす役割は非常に大きい。主人公のみならず他の登場人物の心の変化を促す物だからである。
しかるに、その彫刻に関する描写が肇と川平の台詞のやりとりだけで終わってしまっているのだ。これでは、物に心がこもらない。つまり、観客はこの彫刻にそれを作った子どもの境遇や、その父親である川平の思いを実感できないのである。
したがって、このストーリーの前半と後半の主人公の心境の変化や、物事に対する反応の差異に納得できないということになる。
これは、僕の想像であるが、企画段階でのシナリオの書き直しの過程で、後半部分のストーリー展開を重視するあまり、前半におけるこの小道具に対する描写が省かれてしまったのではないかという気がしてならない。
それほどに説明不足だった。
よい題材たっただけに、ちょっと残念でもある。
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